■ ARITO's Audio Labの起業、その後
このページを書いているのは2022年10月です。副業としてARITO's Audio Labから最初のトランスを発売したのが2020年2月ですから、はや3年近くなります。もともとこのURLにはトランス発売直前に、この仕事を始めるにあたって思いの丈を書いたページがあり、そのページが長らく放置になっていましたので、その後の推移を踏まえて、現在、そして未来について書きたいと思います。
さて、以前のページでは以下の4項目について評価を行い、定年後の本格参戦の是非を決めたいと書いています。約3年が経った今、現時点での評価を書いてみたいと思います。
●トランス巻線技術の維持、向上
これについては、毎日のように巻線作業を行うことが出来ており(早起きして会社の仕事の前に巻線作業を行っています)、少なくとも技術の維持は出来ているんじゃないかと思います。 ラボの売りである個々の周波数特性を予め提示したうえでトランスを買っていただく、というのは、以前のページを書いた時点では正直なところ上手くゆくか自信はなく、素直な特性を持つトランスを生産し続けることが出来るのかどうか不安でしたが、周波数特性において世に出せない程ひどいものはそれほど多く発生することはなく、特に最近においては全く出ていない状態になっています。それなりに向上は出来ているのかもしれません。
●自らの単純作業への適性
この点が一番不安でした。トランス生産の作業は基本的に単純作業の連続ですし、巻線作業に関しては集中することができないとミスが頻発してしまいます。3年ほど続けてみての結論は、何とか出来るんじゃないかしら、です。1日中、巻線作業をすることは緊張が続きませんが、幸い販売目標はそれほど高くないので、1日平均2個くらいなら巻線作業は何とかなりそうです。ボビン巻きトランスでしたら一つ巻くのに約1時間ほどですから、2個くらいなら緊張を続けることはそれほど苦にならないことがわかりました。怖いのは私のサボり癖でしょうか、今は副業としてですので、時間に追われて無我夢中ですが、フルタイムで従事するようになったときに自分を律することができるか、ということについてはやや不安は持っていますが....
●ガレージメーカーとしての市場性
これは評価が難しいですが、3年足らずの間に合計700台を超えるトランスを生産し、これまでヤフオクに出品したトランスは全て落札していただいている状況であり、しかも徐々にですが出品価格を上げて利益が出るようにはなってきていることが大きな励みになっています。会社勤務を卒業してフルタイムとなった時には、今の倍くらいの数量の生産を目論んでいますが、これが全部売れるのかどうか、というのはもちろん不安ではあります。
副業を始めて以降、管球アンプ用トランスを作ってきたメーカー(SELさん、イチカワさん等)の市場からの撤退が相次いでいます。この業界の顧客は私よりも年配の方がほとんどですから、市場規模はだんだん小さくなってきており、メーカーとして事業を維持するのが難しくなってきているのではないかと分析しています。市場規模が縮んでいることは明らかですので、バラ色の将来は見込めないのですが、メーカーの撤退が相次ぐ中で、私のような零細な事業体はむしろ存続しやすいのではないかと思っています。私にしてもいつまでも仕事を継続できるわけではなく、あと10年くらいがせいぜいだと思いますので、それくらいの間は市場は縮み続けるとしても何とか生きていけるんじゃないかしら、と楽観しているんですけど、甘いでしょうか?
●ARITO's Audio Labの認知(浸透)度
これはどうなんでしょう? 正直言って分からないです。
ヤフオクにおいては、かなりの落札者の方にリピート落札いただいている現状がありますので、実際にお使いいただいたお客様には商品についてそれなりに評価されているのではないかと希望的な観測をしています。
ただ、これまでは充分な利益を取ることが出来ていない状況ではありますので、もう少し価格を上げてもリーズナブルだと思っていただけるかどうか、については手探り状態です。 ARITO's Audio Labのトランスだから高くても仕方がない、と言っていただけることが理想なのですが...
とまぁ、以上のような勝手な評価を経まして、2022年7月に会社を定年退職する際に、私はこの商売を今後も継続し、より本格的に取り組んでゆくことを決心しました。この判断を後悔する未来が来ないことを祈るばかりです。
本格参入するに当たって、ラボのトランスの販売方法を整理しました。
〇一般品
一般品は基本的にヤフオクに出品して販売します。一般品は毎日生産をし続けることで仕事のリズムを作り、基本的な売上げを確保することが狙いです。
ヤフオクに出品すること自体に、ある程度の宣伝効果があるように思いますので、少し安めの開始価格を設定して販売をします。
ラボの発足当初は落札価格は結構上昇したのですが、時間を経るにしたがって、開始価格に近付いてきました。これは、考えてみれば当たり前のことで、定期的と言えるような周期で同じ商品を出品し続けているのですから、欲しいトランスの価格が上がってしまったら、諦めて次の出品を待てばいい、という判断をされるのは仕方のないことだと思います。新製品を投入した直後は落札価格は結構上昇するようですので、どんどん新製品を投入できればよいのでしょうが、それは大変難しいことです。少しづつ品種を増やして行くことができれば、次の出品までのインターバルが長くなることになりますから、落札価格はある程度上昇することが期待できるかもしれません。
時々一般品を直接販売してもらえないか、という引き合いがありますが、基本的な考え方としては、直接販売は行うものの、これまでの落札価格を下回る見積もりは出しません。ヤフオクで落札するよりも直接販売で安く買える状況を作ってしまうと、高価な価格で落札いただいたお客様から怒られてしまいますから。
ということで、次の出品を待てない人や、何らかの理由でヤフオクを通じて購入するのが嫌な人、できない人に対しては直接販売をします。
〇受注生産品
受注生産品は、一般品からの派生商品(シングル用のコア組みを変えたり、コア材質を変えたり、二次側巻線の極性を反転したモノ)と、一般品とするにはやや仕様が特殊なトランスを指します。
以前は、コアギャップレスのシングル用出力トランスをヤフオクに出してみたりしていたのですが、普通のトランスだと勘違いして落札される人が多いので、トラブルを避けるために受注生産品とすることにしました。
一般的にはオリエントコアが高級品とされ、セールスポイントとして販売されているメーカーが多いのですが、音質的にはむしろハイライトコアの方が私は好ましいと認識していて、これはヴィンテージサウンドが好きな人もそう感じる人が多いようです。一般品としてハイライトコアのトランスを加えようかとも考えたのですが、ハイライトコアは透磁率が低いため、低域のレスポンスがデータ上貧弱になりがちで、周波数特性を提示して販売するラボの方針においては弱点となりかねないので受注生産品にすることにしました。自分用のトランスなら迷わずハイライトコアを使います。
〇特注品
特注品は、基本的に手持ちの材料で対応できる範囲のものが対象となりますが、一般品の生産機種が増えるにつれて使える材料が増えてきましたし、少量でも購入できる材料であれば対応は難しくないので、引き合いのあったものについてはできるだけ断らないよう心掛けています。
実は、ここ1年ほどのあいだ特注品(受注生産品含む)の受注残がずっと継続する状況にあります。これは非常に有難いことでして、一般品は日々のルーティーンワークで対応し、残りの時間で特注品に対応するというのは理想的だと感じています。前述のように、一般品は利益が薄いので、利益の取れる特注品が続くのは大変うれしいことなんです。
特注品として生産したトランスでも、使いやすい仕様のもの等は、受注生産品としてご紹介できたらいいなと考えています。
前述の通り7月に会社を定年退職し、以降は再雇用の嘱託として会社勤務を継続しています。現役時代と仕事は同じで給料は激減という、多聞に漏れない状況になっています。どなたでもそうではないかと思いますが、給料が激減(なんと7割減!)しているのに同じ仕事をせよ、なんてことを言われても何ともモチベーションが上がらないものです。それに比べて、まだまだ十分な利益が取れなくとも全てを自分で考えて運営する自営業の方がよっぽどヤル気がでるものなんですね。自分の身に降りかかって、やっと実感ができました。商売の売上げ、利益は順調かも?と思える程度には増えつつありますので、そのうち会社の仕事を辞めてトランスの商売に専念できたらいいなと考えておりますが、やはり社会保険を会社と折半することの恩恵も捨てがたく、悩みの多い日々を過ごしています。